ふたりだけの
ファッションショー
今回は写真が多いよ。覚悟して読んで、いや、見てくださいね。
私たちは、逗子の教会で、ふたりだけの結婚式を挙げた。
手を重ね合って、牧師の言葉を聞きながら、みゆきの眼には涙が浮かんでいた。
ふたりにとって、感動のときであった。
そのときのようす、気持ちは当然新刊「葉山 喜寿婚の浜」にも書いた。それを書くために出版したようなものだった。
そこに、私はこう書いた。
『喜寿婚の、完結、であった。』
悩み、迷い、しながら、それでも静かに育ててきた私たちの愛が、教会でのひとときで完結し、これからは新しいふたりの人生が始まる。そんな思いだった。
しかし、これまでのことを本にすることになった。
私には、結婚の感動、感慨はともかく、出版という作業はこれまでにも数多く経験している、ごく普通のできごとに過ぎないのだが、みゆきにとってはそうはいかない。
自分の人生、自分たちの愛の流れが出版されることは、かつてない一大事件なのだ。
うれしくて仕方がない。だれかれなくいいふらしたい。
いや、実際にいいふらして回った。
ひとりでいるときも、私と一緒のときも、
「わたしたち、結婚したんですよ。そのことが一冊の本になるんですよ」
いいまくった。
みんな、喜んでくれた。おめでとうといってくれた。よかったねとほほ笑んでくれた。
中には、涙を浮かべてくれるひともいたのだ。
そして、ほとんどのひとが、
「パーティはいつですか」
「パーティには呼んでくださいね」
口を揃えていう。
これが私たちの心を変えた。
喜寿婚は完結したはずだったのだが、やはりパーティを開いたほうがいいのか。
喜寿婚のお披露目だけでなく、出版記念会も兼ねて、パーティを開こうか。
みゆきにその気持ちを伝えると、表情がぱっと変わった。
笑顔の花が大きく開いた。
「パーティ、するの? してくれるの?」
私は、考え考えいった。
「開いたほうがいいようだな。場所は、指輪を渡した「ラ・プラージュ」。連休明けにでもしましょう」
みゆきは、またしても涙ぐむ。
だが、ここにきて事態は大きく変化する。
パーティを開くことが決まると、みゆきは瞬時にしていった。
「わたし、なにを着ようかしら」
そして、少し間をおいて、
「来週にでもアメリカに行ってくるわ」
思いがけない展開に驚く私に、みゆきは、
「その、わたしたちのパーティに着る物を買いに行くの」
もう決めているようだった。
私は頷いた。
着るものなんか、たくさんあるじゃないか。めったに着ることのない素晴らしい服が、いっぱいしまってあるじゃないか。
そうは思ったが、口には出さなかった。
みゆきの心がわかった気がしたのだ。
たくさんあっても、どれも昔のもの。いいも悪いも、いくつかの思い出が染みついているはずだ。いいこともあったろうし、いやなこともあったろう。
新しい人生を始める、祝ってもらうパーティには、一点の染みも思い出もない、真新しい服装で臨みたい。
そうした思いが伝わってきた気がし、私はむしろ喜んで送り出す気になったのだった。
アメリカに行くには、もうひとつのわけがあった。
サイズの問題。
日本にもいいブティック、ショップはたくさんあるが、みゆきにぴったりのサイズのものはほとんどない。
176センチの長身に合うものといえば、いわゆるクイーンサイズ。丈は合わすことができても、プロポーションにフィットするものは少ない。あったにしても、ファッションセンス的にどうかというものばかり。
アメリカ西海岸の、みゆきがかつて暮らしていた町やその周辺に、高級デパートはいくつもあるし、馴染みだったブティックもあるという。
「それに、✕✕子さんの家に泊めてもらうから、ホテル代はいらないし、車も貸してもらうか、送り迎えや買い物の手伝いもしてもらえそうだから」
安上りだという。
そして、
「高いものは買わない」
私がなにもいわないのに、金のことを気にしている。いじらしい新妻だこと。
そして1週間後、みゆきはインターネットでエアチケットを購入し、さっさと飛び立っていった。
せめてビジネスクラスにしなさいよ、というのも聞かず、エコノミークラスで。
翌日から、というか、時差もあるので翌々日から、みゆきからのメール、写真がマシンガンのように送られてくる。
そのたびに感想、意見を求められるので、私にとっても忙しい日々が続いた。
写真はカタログを写したものも、試着してその鏡をスマホで撮ったものもあり、ここから紹介するのはその一部に過ぎないといえば、いかにみゆきが走り回ったかがわかる。お付き合いくださった✕✕子さん、ご苦労さま。
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1週間後、宅配も入れて大荷物と共に帰って来たみゆきは、早速私の前でファッションショー。
さすが、元トップモデル。楽しいショータイムでした。
みゆきが、私との結婚を、そしてパーティを、限りない喜びで受け止めていることがよく分かった。
なにを買ってきたかは、「ラ・プラージュ」でのパーティの紹介のところでお見せします。
帰国してしばらくして、みゆきはある音楽関係のイベントで上京した。
イベントは短時間で終わったらしく、そのあとに立ち寄ったファッションデパートからメールが来た。
「夏に、ポロシャツやTシャツの上に羽織る軽い上着がないっていってたでしょう」
事実、昨年まで来ていたものは、あまりに安っぽく、子供っぽく、みゆきと一緒にいるときには着たくないと思って、ほとんど処分してしまっていた。
美しいみゆきの、ちょっと素敵なダンナサンでいようと思ったのだ。
そんな私のために、
「こんなのは、どう?」
写メしてきた。
サイズがわからないと思ったのか、みゆきが自分で試着して写す。みゆきに少し大きいくらいが、私にはちょうどいい。
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私のための上着を試着するみゆきの写真を見て、さすが元トップモデル、と改めて感じた私は、みゆきに頼んで昔の写真を送ってもらった。
下の2枚。
「あまり好きじゃないけど、このスマホにはこれしか入っていないの」
というが、見て見て。これが自慢のオクサンだ!