凄い“同級生”たち

高島俊男さんという方がいた。中国文学の第一人者にして、日本語のプロ中のプロといってもいいひとだが、このひとがある週刊誌に連載していたエッセイが面白かった。

多くの作家、学者、著名人が、いろいろなところに書いた文章、話した言葉などを、皮肉たっぷり、意地悪心丸出しの筆致で取り上げ、あげつらう。

例えば、どこかのお澄まし女性学者が、

「女性に歳を聞くなんて、外国では考えられませんわ」

などと喋っていたら、こう尋ねる。尋ねるふりをして揶揄する。

『ケニアでもそうなんですか。ボリビアでもそうですか。アフガニスタンでは?』

まったく嫌味なひとだ。

ある流行作家の作品に、

『皇女和宮が信州のある場所を通って江戸にお輿入れするとき、村の女性たちが「私たちも見に行こう」などとはしゃいでいた。』

などとあるのを読み、

『この作者は日本の歴史をまるで知らないようだ。皇女を「見に行く」などと発想する日本人などいたはずがない。家の中でひっそりと身を潜めているか、どうしても行くのなら「拝みに行く」というに決まっている。』

と呆れる。

高島先生にかかると、著名な直木賞作家も、

『このひとはどうやら日本語が不自由らしい。』

と容赦なし。

この先生が私の文章などに目もくれなかったのには、感謝しなければならない。

というわけで、私の大好きな先生で、自分もいつかはこういったエッセイを書きたいと思い続けて今日に至っているのだが、高島先生がエッセイ集のタイトルにもし、常々おっしゃっていた言葉は、

『本が好き。悪口いうのはもっと好き』

いいこといいますねぇ。

 

私も長年いろいろなものを書いてきて、中に辛口エッセイと呼ばれるものもいくつかあった。

大昔に出版した『芸能界を斬る』や、アメリカ在住中に日本で出した『日本のゴルフ、おかしくないか』など、当時その業界に大きな波紋を投げかけたもので、だから“辛口”という“称号(?)”が与えられたのだろうが、辛口は辛口であっても、私の書くものは決して悪口ではなかった。

“悪口”ではなく“からかい”“揶揄”。

高島先生の「悪口いうのはもっと好き」も、本心は「からかうのがもっと好き」ではなかったろうか。

精神だけは高島先生に並んでいた、と自負する私ではありますが、ここしばらく、私の心の中にこの“揶揄精神”がまたまたむくむくと膨らんできてもいる。

前回書いた昼間のテレビに関する感想も、よく読んでもらうと悪口ではなく、からかっていることをわかってもらえるはずだ。

 

ということで、今回もテレビの話を少々。

 

あまりテレビを観ない私だが、スポーツ番組は比較的よく観る。

最近ではプロ野球の日米対抗。ゴルフの太平洋マスターズ、ダンロップ・フェニックス。

観ているうちに面白いことに気付いた。

“同級生”という言葉が多く使われている。

以前はあまりなかったことだと思うのだが、例えばジャイアンツの坂本隼人選手と広島カープのマエケン・前田健投手が“同級生”。

ゴルフの石川遼と松山秀樹が“同級生”。

初めのうちは、おや、と思った。

坂本と前田は、どこの高校を出ていたっけ。

遼と秀樹は、同じ学校だったかな。

そんなことはなかったろう、と考えて、これはアナウンサーや解説者が間違えているのだ、と気づく。選手たちの学歴、経歴を間違えているのではなく、“同級生”という言葉を間違えて使っているのだ。

彼らは、ただ単に“同じ年”“同学年”といった意味で“同級生”といっている。

百歩譲って、もし選手ふたりが同じ学校の、同じ学年で学んでいたとしても、クラスが違えばそれは“同級生”とはいわない。それは“同期生”。

 

テレビのスポーツ番組の関係者諸君、直ちに訂正しなさい。訂正が難しかったら、今後使い方を改めなさい。

え? あなたも間違えて使っているって? 困ったもんだ。

 

もし同じ年齢だというだけで“同級生”なら、だれもがすごいクラスメートを持っていることになりますよ。

ご自身のことは自分で考えてもらうとして、私の“同級生”を眺めてみると、

野球でいえば、王貞治が“同級生”。張本勲もそうだ。

ゴルフなら、金井精一、といってもピンとこない向きには、どうだ、ジャック・ニクラス、リー・トレビノ。これなら驚くだろう。

つまり同じ年、1940年生まれはすべて“同級生”となるのだが、それではきりがないので、同じ学校(これは、同窓生)で同じ年齢となると、麻生太郎、亡くなった森村桂、いまをときめくジブリ宮崎駿。まだまだいるよ。

これをもって、俺って凄いな、とならないのはいうまでもないが、こんな誤解をさせる(私だけ?)“同級生”発言、いい加減にして頂戴。

 

と、悪口ならぬ揶揄をぶちかましてみましたが、ふっと真面目に考えてみて、ほんとうの同級生にしても同窓生、同期生。みんなどんどんいなくなっている。

たまに送られてくる同窓会名簿など、物故者の欄が半分以上になっていることに愕然とすることもある。

そんな名簿を「生存者リスト」と書いて物議を醸したこともあったが、あの時は揶揄ではなく、本心であったのだ。

 


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