孤独な老人のひとりごと

 長いさぼりから覚めて、これからはなるべく頻繁に、週に1度か2週に1度は更新します、といってから、約束通りだったのはたった3回で、早くも2週間ものお休みをいただきました。

誰にも迷惑を掛けないんだからいいだろう、という開き直りもあるにはあるが、ちょっとは、悪いな、の気持ちもある。

孤独な老人のひとりごと でもね、どうしてこうさぼってしまうのか、と考えるにだ、要するに書くことがないんですよ。

東京にいたころまでさかのぼらずとも、4年前葉山に移り住んでからも、なにやかやと忙しく、わさわさと動き回っていた。

いろんな店に食べに出かけたし、遠くまで車を飛ばして遊びだの買い物だのと楽しんでいた。多くの新しいひとたちと知り合い、いくつもの発見もあった。

このページに書くことに不自由はなかったのだ。

ところが昨年夏の初め、未紗が施設に入ってから、私の、2匹の犬も含めての、私たちの生活は一変した。

ほとんど動きがなくなった。

未紗の施設の近くに移ってきてからは、輪をかけて単調になった。

週に2、3回、未紗と一緒の昼食を摂りに出かけ、そうでない日は、水彩画、お習字、コンサート、映画などのお勉強、リクレーションタイムを外して夕刻近くに施設に行く。

あとは毎日1度か2度の犬の散歩。これが唯一といっていいほどの日課。

週に1度ほどの買い物ドライブ。

それだけ。まったくそれだけ。

夏のあいだは、前に書いたように散歩の途中で浜の海の家“NOA・NOA”で生ビールを飲むというイベントがあったのでまだ救われていた。夏が過ぎてしまうと、そのたったひとつのイベントもなくなり、平凡、平坦、平板な日々が続いている。

 

孤独な老人のひとりごと 週に1度ほどは、すぐ近くの“菊水亭”で、ビール1杯、焼酎の水割り3杯、食事というよりいくつかのおつまみという夕食、ということはあるが、その間の2時間ほどほとんど口を利かず、飲みながら食べながら、黙ってテレビのスポーツ番組を眺めているだけ。

そう考えてみると、ここのところ私はほとんどひとと会話を交わしていない。

未紗といるときもそれほどの会話はないし、施設のスタッフや医師、買い物先の店のひと。これなど、会話とはいえないだろう。

部屋にいるときは必ず2匹の犬がぴったりとくっついており、彼らにはいろいろ話しかけはするが、これも会話とはいえまい。

 

孤独な老人のひとりごと 孤独な老人のひとりごと。

 

いまの私の住む世界は、こんな世界なのだ。

 

淋しい、寂しい、といっているのではない。

いまのこうした日々が、私にはむしろ楽しい。

強がりでなく、この孤独が、私には快適なのだから仕方がない。

大体、孤独には強い。

淋しさを感じないわけではないが、寂しさが快感でもある。

 

昔から、子供のころからそうだった。

ひとりでいることが好きだった。

友達と群れていることもあったが、気持ちはひとりだけ離れていた。

これまでの数十年、多くの友達ができたが、ある程度のときが過ぎると離れていった。自ら距離を置き、やがては遠ざかった。

彼らはだから、友達というより、知り合い、知人、仲間、というべきだったろう。

 

友達はいても親友はいない。

数年前『想い出だけが通り過ぎていく』という自伝風小説を上梓したとき、解説文を書いてくれたある評論家は、私のそんな生き方を、

「疎開世代の精神」

と喝破した。

大戦末期から終戦後しばらくまでの“家族疎開”。いくつか年長者たちの学童疎開とは全く違う。
都会に生まれ育ちながら、精神育成が最もなされる幼年期、遠い田舎に移され、言葉も生活習慣も考え方さえ違う世界で、心を硬くして育ち、やがて都会に戻っても、その心の硬さはほどけずに大人になっていく。

孤独な老人のひとりごと 「だから」

と評論家は書く。

「疎開世代は驚くほど動きが自由だ。海外にもなんの躊躇いもなく出かけるし、そこに住み着いてしまうことさえ多い。すぐの別の外国に移るにしろ。」

なるほどな、と思った。そうだったのか。

そういえば昔、大先輩の作家にいわれたことがある。

「君は嫉妬というものを知らないだろう。ひとを妬んだことがないだろう」

嫉妬するほど、妬むほど、相手との距離を詰めてはいないから。

それは作家としては決定的なマイナス要因かもしれないが、いまになって思う。いいじゃないか。それがおれなのだから。これで70年間生きてきたし、それなりに満足な人生であったわけだから。

 

なにか書かなければいけないな、と考えながら、ノー・プラン、ノー構成のままキーボードを叩いていたら、こんな文章が生まれた。ということは、これが本心なのだろう。

しかしこんなことは、ひと様にいう話ではないな。

次回はもっと“フツーな”話にする。

なににしようかな。
そうだ、テレビについて書こう。
このところ、テレビを見る時間がずいぶん増えた。暇なものですから。

 

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